私は、塾業界に入る前に「自己啓発セミナ-」のインストラクタ-をしていました。その時のセミナ-の運営会社の社長であり、心理学者だったのがCox氏でした。社長からはセミナ-の中で最も重要なのがインタビュー(面接)であると教えられました。面接に用意するもの、尋ねたことに答えてくれない人の対応、聞きたい質問を次々と繰り出すタイミングなど、彼から学んだことは上げれば切りがない程です。相手のあることですから、臨機応変に、“面接は心と言葉の格闘技”です。
NHK報道番組「クロ-ズアップ現代」でキャスタ-を務められた、国谷裕子さんの著書に貴重な記事を見つけました。本文通り掲載させてもらいます。『東京都内のホテルで西ドイツ元首相、老練な政治家ヘルム-ト・シュミットさんをインタビューしました。シュミットさんに、今日はヨ-ロッパ統合についてお聞きしたいと言いました。するとシュミットさんからは「あなたの言っていることが1つも分からない」と言うのです。私は驚いてもう1度同じ説明を丁寧に行いました。シュミットさんはまた「一言も分からない」といわれ、その場は凍り付きました。私は雰囲気を変えようと部屋に用意していた飲み物を指しながら「何か如何ですか?コーヒー、紅茶、ジュース、にお水用意しています」と言いました。彼は「コク」と答えました。今度は私が何を言われたのか理解できません。戸惑っていると彼はゆっくり「コ-ラ」と言いました。部屋にいたスタッフがコ-ラを買いに飛び出しました。私はまさか70歳を超えたドイツの政治家が朝からコ-ラを飲みたいとは想像できず聞き取れなかったのです。そしてシュミットさんは私の方を向き、「私はこちらの耳が聞こえないのです」と言いました。聞こえない耳の方向から話をしていたのです。自分の伝えたいことに一生懸命で、相手の体全体から発していたであろう“聞こえない”と言うメッセ-ジも私は読み取れなかったのです。』プロ中のプロのインタビュアーである国谷さんの文章でした。人の話を聞くうえで大切な事は、何をどう質問するかの事前準備です。“聴く”こと、それと同時に、相手が体全体から発しているメッセージを受け止めることです。インタビューの初心に帰らされ、勉強になった文章でした。
私の畑には今、モンシロチョウが、我が世の春を謳歌しています。モンシロチョウのオス・メスの区別を見分けるのは難しいものです。羽の黒い部分が何となく違うくらいですが、飛び回っているのは、殆どオスです。我々には雌雄の区別がつきにくいのですが、モンシロチョウには、はっきり区別がつきます。鳥類もそうですが、多くの昆虫は、我々に見えない紫外線を見る能力があります。モンシロチョウの場合、同じ様な白い羽であっても、オスは紫外線を反射しませんが、メスは紫外線を反射して、オスに居場所を知らせるのです。モンシロチョウがタンポポの花の蜜を吸っている光景を見た事があるでしょう。我々にはタンポポの花が全て黄色に見えますが、タンポポの花は紫外線を反射して、中心に甘い蜜のある事を、昆虫に知らせています。我々にも紫外線を感じる花があります。時期が外れていますが、“つつじの花”を注意してみてください。花びらの1枚に黒いツブツブがあります。つつじの場合、このツブツブが紫外線を反射して、昆虫たちに甘い蜜の在処を知らせています。蜜を提供することで受粉するように、昆虫と植物とが助け合っています。昆虫と植物の体全体から発するインタビューです。
夜、街灯や家のあかりにたくさんの昆虫が集まっているのを見たことがあるでしょう。しかし、最近は集まる昆虫が少なくなっています。昆虫が減ったわけではありません。街灯には、水銀灯や蛍光灯が使われて、人に見えない紫外線が出ていましたが、最近は、街灯にLEDが使われ、LEDはあまり紫外線を出しません。相手から発する信号と、こちらから発する信号が合致するのがインタビューです。自然界からも教えられることが多くあります。昆虫たちよりも優秀なインタビュアーに!
今年、我が畑でモンシロチョウを見掛けたのが3月2日、昨年は3月13日でした。地球の温暖化で動植物の生態系は変わるかも知れませんが、インタビューの真面目(しんめんもく)は変わらないでしょう。(典)