「高きやに登りて見れば煙立つ民のかまどはにぎわいにけり」は、皆さんもよくご存知の仁徳天皇の和歌です。私の記憶では、仁徳天皇はこの和歌を詠む3年前に、民のかまどから煙が立っていない状態を目にして、3年間年貢を免除しました。民のかまどから煙がたなびくのは何時かと心待ちして、ついに食にありつけた民に心の底から喜んだと推測します。国家の政者はまず民の暮らしを第一に考えるものです。その後、推古天皇に聖徳太子が作ったとされる「十七条憲法」の十六条に次の様な文面があります。『十六にいう、人民を使役するには時期をよく考えてする、とは昔の人のよい教えである。だから冬に暇がある時、人民を動員すればよい。春から秋までは、農耕、養蚕などに力をつくすべきである。人民を使役してはいけない。人民が農耕をしなければ何を食べていけばよいのか、養蚕がなければ何を着たらよいのか』(十七条憲法現代語訳より)ここでも国を治める者、人民あっての国作りと説いています。
「荘子」に掲載されている面白い問答があります。春秋時代に九千人もの手下を持つ盗賊団の頭であった盗跖という男に、孔子が泥棒にも「道」はあるのかと聞くと、盗跖は自信たっぷりに「この世に道のないものはない。家に何があるかを見分けるのが『聖』、最初に入るのが『勇』、仲間を先に逃がしてやるのが『義』、うまくいくか判断するのが『知』、盗品を公平に分けるのが『仁』である。この五つの徳を備えずに大泥棒になったやつはいない」と言い切っています。人間が集まるところ、どんな集団にもそれを成り立たせる道はあるものですが、最後の『仁』は会社経営者にも参考になるのではないでしょうか。盗跖が九千人の手下を抱えながらも反乱者が出なかったのは、公平な分け前があったからこそと思われます。善・悪別に経営者
昨年の暮れの選挙で政権交代が行われ、総理はデフレ脱却で2%の物価上昇を打ち上げました。また3本矢の1つで日銀に金融緩和をせまり、ここ3ヶ月で円は10円以上の円安に、株価は1万3千円を目指しています。注目したいのは、この2%物価上昇です。80年代後半から始まったバブル経済時、土地や株価は2倍・3倍に跳ね上がりましたが、生活必需品は1.5%~1.8%の上昇でした。それが今回2%の上昇です。大手コンビニは3%の年収UPを発表しました。また総理を含めた政府要人が経済界の主な面々を集めて、儲けは内部留保せずに職員の給料に反映させて欲しいと要請していました。円安で差益の出る会社は可能でしょう。
今年の1月の埼玉県内の倒産件数は、41件・負債総額約92億円、前年比としては13%減でした。昨年も前年より少なく推移していました。しかし2%の物価上昇に対応するには3%~4%の給料UPが必要です。中小零細企業は給料UPの原資をどこで工面するのかの問題が生じてきます。金融緩和で企業が取引している銀行からは融資の話が有るでしょう。しかし、原資を満たす予定の無い企業が借入金を組んでも1年先には借金がボデ-ブロ-のごとく効いてきます。融資は返済が有り利子も支払わなければなりません。返済能力の無い会社は倒産への道を歩むことになります。私の経営哲学に「銀行が融資を進めてくる時は絶対借りるな」とあります。(銀行の営業利益は何か考えて)
職員は企業にとっては宝です。仁徳天皇や聖徳太子が民を思う気持ち、その気持ちが経営者(役員達)になければ職員は暮らせないでしょう。暮らしを守る責任があります。また盗跖の「仁」も欠かせない条件でしょう。2%のデフレ脱却に経営者達はどの様に対応するか、原資をどの様に調達するか、役員達の手腕に係っています。いつまでも既得権にしがみ付き、老人脳(改革を恐れ)、プライドの保持、ではこの難題は乗り切れません。企業として大きな変革が無いと将来はありません。経営者としてもう一度、会社のシステム、人員配置、収益帳簿、自分の立場を見直さないと大きなシッペ返しがきます。今も昔も守らなければならないのは働いてくれる人達です。面子に拘っている時間はありません。(典)