深層意識

 我々が普段使っている漢字は中国から伝わってきました。国語辞典の中で頭に「る」や「ぺ」が付く言葉は少なく、逆に一番多いのは「し」だと言われています。7万語以上の言葉が編集されている国語辞典で「る・ぺ」が頭にくる言葉は、百前後なのに比べて、「し」が付く言葉は5千語を超えています。最も「し」については「しゃ・しゅ・しょ」が国語辞典に編集されている事もあります。元々「し」の付く言葉は多いのですが、中国から入ってきた漢字を音読みした時「し」が多かったようです。例えば、歯・子・志・市・使・始・仕・思これらの漢字は、昔の中国では「し」に似ていても、それぞれ違った音だったのです。しかし、昔の日本人は、小さな違いを理解できず、区別ができないまま「し」に似た音を全て「し」にしてしまいました。中国語を聞いても発音を真似することが難しく、日本人には苦手だったのでしょう。落語にも「しの字嫌い」いう演目があります。主人と使用人権助の会話です。権助は言葉使いが悪く「死ね」とか「しくじりやがって・懲らしめてやる」とか生意気な口をききます。気に障った主人が権助を呼び、今後いっさい「し」を使うな!お前が先に「し」を使ったら店を出て行きなさい。私が先に使ったら、お前の好きな物をやろうと提案します。権助は、言葉使いは荒くても、頭は良かったので、「足を洗え」を「あんよを洗いなさい」「どうかしたか」を「どうかなったか」と置き換えて主人と権助の会話が続きます。なかなか「し」を使わない権助に主人は「しぶとい奴だ」と言って、主人が負ける話です。「し」の付く言葉が多いから演目にもなったのでしょう。「し」を使わないと会話は難しいものです。

 ある小学生が担任の先生に、「今度僕引っ越しするんだ。でも引越ししないかも?」と言いました。先生は不思議に思い詳しく話を聞くと、生徒のお父さんは警察官で、昇進試験に合格ならば引越ししますが、不合格ならしません。先生が生徒に「引越しすると、皆が寂しくなるね。」と言うと、お父さんは不合格に。「合格すると良いね。」これだけだと生徒は置いてきぼりに。「宏君が引越しするのは寂しいけれど、お父さんの昇進試験、合格すると良いね。」と言えば何の問題もありません。言葉が足りないと気持ちが通じない例です。逆に、一言多いために周りを冷ややかにさせる事もありますし、場を読まない言葉で人の心を傷つけたりする言葉の暴力もあります。言葉は「アメ」になったり「ムチ」になったりします。

 人生観を表す言葉もあります。経営の神様松下幸之助さんの面接時の言葉です。「あなたの人生はいままでツイていましたか?」と必ず聞くそうです。面接対象者が、東大・京大・早慶等の優秀な大学を卒業していても「いいえツイていません」と答えた人は採用しなかったようです。逆に「すごくツイていました」と答えた人は全員採用しました。優秀よりツキが重要だったと考えていたようです。何故かというと、「私はツイています」と自分で言える人の深層意識には「自分の力だけじゃない」という周りに対する「感謝」の気持ちが必ずあるからです。根底に感謝の気持ちがある人は、今は優秀に見えなくても、今結果が出ていなくても、必ずいい人材に育つことが松下幸之助さんには見えていたのでしょう。事実「はい、ツイています」と即座に答えて採用された学生達は、やがて課長になるころ、彼らの企画が続々とヒットし始め、松下黄金期へ突入しました。「ホンダ」の創業者本田宗一郎氏は、技術関係者の採用時にB4版ほどの白紙を出し、自分の名前を書かせました。右上下・左上下・真ん中に小さく書く人は採用しなかったそうです。紙一面に大きく均整の取れた自分の名前を書いた人を採用しました。技術屋は、いかに自分を大きく丁寧に美的に、創造逞しく表現できるかが勝負、自分を表現できない人は「ホンダ」には要らないということでしょう。言葉や表現能力は深層意識が現れます。特に、面接などの緊張した場面では!

 今日の日記「仕事も、余暇も、終始上手くいき幸せな一日だった」。「し」抜きでは何と書けばいいかな!よいお年をお迎えください。(典)

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