売りもの

 今年も例年通り正月2日、3日は、第91回東京箱根往復大学駅伝競走のTV中継に釘づけになりました。片道109,6Km、10区間にわたり、毎年ドラマが繰り広げられています。今年も5区の箱根の山登りで大きな勝負に出た青山学院大学が、2位に4分以上の差を付けて往路優勝し、復路も余裕で総合優勝に輝きました。青学は優勝候補にはなっていましたが、多くのスポ-ツ紙で「かも」が付いていました。10時間50分を切るとはどの新聞も予想していませんでした。青山学院は以前、野球、サッカ-、陸上に力を入れていました。プロ野球の選手の中にも青学出身者が多く、ヤクルトの石川、小久保、坪井、井口、高須等、プロ野球で大活躍の選手を輩出しています。しかし、ここ数年は東都大学野球でも2部に所属し、良い成績を残していません。青学は運動部支援を大きく変えたのです。陸上部の中でも長距離、マラソンに多くの予算を投入し、他のクラブの支援金を駅伝にかけたのです。入試の推薦枠の拡大(AO入試も含む)もしました。箱根駅伝で優勝すれば、優勝校に年間約2億円の宣伝効果が生み出されると言われています。時も新年正月、大学入試直前です。納得できる話です。青学は「売れるもの」に投資をしたのです。出走者はまだ3年です。来年もあります。野球もサッカ-も切り捨て、駅伝にかけ、勝ち組になりました。

 話は変わりますが、皆さんの近所でも、黄色い花を付けたタンポポを目にすることがあると思います。今、タンポポの世界にも異変が起きています。私達の子供の頃は、タンポポと言えば殆ど在来タンポポでした。今は、特に都会では、外来タンポポが勢力を拡大しています。俗に「タンポポ戦争」と呼ばれているほどです。在来タンポポには関東タンポポ、関西タンポポがありますが、明治以降、外来タンポポが勢力を伸ばし、都会の多くは外来タンポポになってしまいました。原因は、在来タンポポは春しか花を咲かせることが出来ないのに対し、外来タンポポは一年中いつでも花を咲かせ、種子を作ることが出来ることです。夏の暑い中、冬の寒い中、黄色の花を咲かせているのは全て外来タンポポです。花も小さく種の数も少ない在来に対し、外来は、花は大きいのに種は小さく軽いので遠くに飛びます。外来は受粉を昆虫に依存しなくても、自身で受粉しますから、1株あればどんどん増やすことが出来ます。タンポポは決して強い雑草ではありません。強い雑草の中ではタンポポは生存できないのです。しかし、人間が開拓で強い雑草を取り除き、コンクリ-ト、アスファルトの道を作ると、その隙間にタンポポが咲いています。これは、タンポポの持っている「売りもの」で、隙間商法とでも言えるでしょう。外来タンポポには別の売り物があります。外来が在来の花に受粉して雑種が生まれると、二分の一が外来の遺伝子となります。その雑種に外来が受粉すると四分の三が外来になります。外来タンポポはこうして在来タンポポを雑種化して、純血の在来タンポポを減少させています。外来は一年中咲き、種は小さく遠くに飛ぶという「売りもの」を持っています。

 また、身近に咲くスミレも、驚くほどの「売りもの」を持っています。スミレの種にはゼリ-状の物が付いています。このゼリ-は蟻の大好物です。蟻は巣穴にゼリ-の付いた種を持ち帰ります。ゼリ-は蟻の食料として食べられますが残った種はゴミです。ゴミとなった種は巣穴から外に運び出されます。スミレの種は蟻の行動によって遠くに運ばれ、子孫を残していくのです。

 青学は優勝できる「売りもの」を持っていました。外来タンポポも在来のタンポポにない「売りもの」を持っていました。スミレも子孫を残すための「売りもの」を持っていました。

 会社も激動の時代、「売りもの」が無ければ朽ちていきます。個人も「売りもの」を持っていなければ雇用されないでしょう。しかし、「売りもの」は買ってもらえるものでなければゴミです。君の会社の「売りもの」は何ですか?君自身の「売りもの」は何ですか?(典)

稲垣栄洋静岡大学教授「身近な雑草の愉快な生きかた」参考

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