親分

 5月に入ると、新入生は学校にも慣れ、学生生活をエンジョイするために、部活動に入部する頃でしょう。私の頃を思い出すと、部の部長がいて、陰の部長がいました。部長・影の部長は、クラブが大きくなればなるほど、君臨していたように思います。私も上手く区別し対応していました。新入社員が、配属された課の中の勢力関係が見えて来るのも5月です。保身のための行動、触らぬ神に祟りなし、が解るのも5月頃です。役職に関らず主の存在が見えて来るのも5月です。

 何年か前の5月に、埼玉県内の塾の代表と、私立高校の校長先生との懇親会が、鬼怒川温泉でありました。音頭を取ってくれたのは、埼玉東部地区の塾長でした。私より先輩で、公立高校の入試当日夕方から、埼玉TVで入試問題の解答と解説を行い、大きく事業を展開していました。当時、我が社も、春日部に本社を置いていましたが、生徒数は彼の方が比べ物にならない程大きい塾でした。マスコミにも顔が利く方でしたから、県内と都内の私立高校は出席し、彼は地区の親分的存在でした。温泉ホテルには、2時集合、3時から全体会議でした。初めて会う先生方もいて、少し緊張気味で早めに会場に着きました。40名前後の出席者で、会場に入った時には、ほぼ半数が、用意されたネームカードの席に着いていました。初対面の方との名刺交換も済ませ、開会の3時を待っていました。時間が過ぎても音頭を取った塾長は入室されません。彼以外は席に着き、隣同士雑談をしていました。10分位過ぎたでしょうか、彼は1升瓶を抱えて、それを机の上に置き開会の挨拶をしました。日活映画の1シーンを見ているようで、TVで見る姿と、私の前にある姿のギャップに驚かされました。その行動に圧倒されながら、怒りも感じました。会議では、地域でバッティングしている塾を非難していた彼の傲慢な態度だけが頭に残り、その後何回か、一泊旅行がありましたが、彼の出席しない時だけ参加しました。数年後、彼の塾の姿はありませんでした。詳しい事は知りませんが、彼は本当に親分だったのでしょうか?親分であれば今も活動しているでしょう。塾も存在していたでしょう。

 スティブン・コヴィ-博士の著書「7つの習慣」にリ-ダ-の4つの役割があります。『方向を示す。組織を整える。エンパワ-メントを進める。模範となる』です。親分(リーダー)を目指すには4つの役割が必須事項と書いてあります。集まりがあり、集団が出来、サ-クルが大きくなるにつれ、必ず引っ張ってくれる親分的な存在が必要になってきます。自然にリーダーが出現して、会員も認めていきます。「7つの習慣」の前に、人間性と常識の欠如しているリーダーが率いる集団や、4つの役割を自分勝手に理解し、親分ずらしているリーダーがいる集まりは崩壊します。

 野球は、監督の存在が選手の成績に大きく影響します。代表的なのが野村克也監督による「野村再生工場」でしょう。ヤクルト時代、プロでたった2勝の田畑一也選手を2年連続2ケタ勝利エ-スに。広島を戦力外になった小早川選手を「伝説の開幕3連発」に。阪神時代には遠山投手を中継ぎのエ-スに復活させました。中日時代、首脳陣との確執で成績が下降し、トレードでオリックスに行ったものの、オリックスを戦力外となった山崎武司選手は、楽天の野村監督の下で長打力が復活、2007年43本塁打(本塁打王)、108打点(打点王)の記録を残しました。山崎選手は、「野村監督に会うまで野球をなめていた。野球を大好きにしてもらった」と言っていました。山崎選手と野村監督の話は有名ですが、野村氏の「野球の教え」(弱者の戦略99の名言)には随所に親分言葉が目につきます。古い話をしましたが、最近、野球界の親分に会ってないのは悲しい事です。

 7つの習慣を熟読し、知識だけは充分な、頭でっかちな親分の多い事。親分に必要なのは、原石を見る目、原石を磨く目を持ち、そして人間性と、口の堅さ。「口は禍の元」まずこれからかな!(典)