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縁担ぎ

 令和になって初めての正月、初詣で寺社を訪れた方も多いと思います。受験生を持つご家庭では、合格祈願のお守りを手にして、「おみくじ」を引かれたことでしょう。おみくじも大吉から大凶まで、寺社によっては、5段階、7段階、12段階と分かれています。大吉が出れば大願成就に喜び、大凶ならばこれ以上悪くならないだろうと、自分勝手な解釈をしています。本人に問題を抱えていれば、おみくじでも縋りたいものです。縁担ぎだけで引いたならば、心に留めません。しかし、職業が勝負師となると殆どの方が縁担ぎです。スポ-ツマンに縁担ぎが多いと言われますが、国技の大相撲の力士は特に縁起を担ぐようです。勝ち越しと負け越しでは次番付、カド番力士なら給金も違ってきます。力士が食べる「ちゃんこ鍋」には豚肉や牛肉は使いません。四つんばいになるのを嫌い、具には鶏肉を使います。力士に限らず、我々の周りにも縁担ぎは浸透しています。大安・仏滅・友引は最も気になる六曜でしょう。結婚式等の祝い事は大安に、仏滅だから・・・友引には葬儀がありません。冠婚葬祭には欠かせない縁担ぎです。それらには科学的根拠はありませんが、昔から日本人は、この縁担ぎの風習を大切に受け繋いできました。元々「大安・友引」等は古代中国の「六曜」という暦の考え方に基づいています。三国志で有名な「諸葛孔明」が戦いの際、吉凶の日を知ることに利用したことに端を発していると言われています。中国からこの六曜が日本に伝わり、江戸時代の中期には、急速に庶民の生活の中に広まりました。明治政府は「六曜」を禁止したのですが、占い好きの日本人には通じず、今に至っています。

 順天堂医学部教授、柿木隆介先生が脳内メカニズム「どうでもいいことで悩まない技術」で縁担ぎを分析しています。

 1つ目は「成功体験による縁担ぎ」。物事が非常にうまくいった時、幸福ホルモンであるセロトニンが大量に分泌され、特に、その成功が予想以上だった時には、非常に興奮して快楽ホルモンであるドーパミンが大量に分泌されます。セロトニンとドーパミンによってもたらされた快感は、その人の脳に明瞭な記憶としてインプットされ、その成功体験をもう一度味わいたいと脳は欲するようです。その時自分はどんなことをしたか、成功の理由となったきっかけを思い出します。洋服は何色、靴はどれ、中には下着まで分析します。他人にはさっぱりわからなくても、本人にはとっても大切な成功体験のきっかけ、それが「縁担ぎ」です。

 2つ目は「負の遺産としての縁担ぎ」です。思わぬ失敗をした時や緊張のために極度のストレス状態とパニックに陥ったような場合にはストレスホルモンであるコンチゾ-ルが大量に分泌され、強度のストレスもその人の脳に明瞭な記憶として残ります。脳はその防御策としてもう2度とそのような失敗はしたくない、と動きます。失敗した時には何が起こったか、自分は何をしたか、洋服は、靴は、と分析して、それを可能な限り避けようとします。「成功体験による縁担ぎ」の逆です。

 3つ目は「家訓縁担ぎ」です。その人の両親、祖父母や一族に伝えられてきた行動や風習です。他の一族や家庭には、まったくその理由が分からない事が多いものです。ちなみに我が家にもあります。父系・母系も商売の家系です。私が独立した時、父親から「鳥は飼うな」と言われました。ニワトリではありません。ペットの鳥です。「鳥を飼った時に倒産する」という教えでした。他人が聞いたら何のことかと思うでしょうが、家訓です。もう一つは「歯固めの儀」です。元旦に初めて口にするものは「干し柿」です。この儀式は父親から詳しく聞きました。

 多くの場合「毒にも薬にもならない」縁担ぎかもしれない。しかし、「信ずる者は救われる」。受験生の諸君、どんな縁担ぎでもいい「合格」の二文字を勝ち取ってください。(典)