蜜蜂

 今から10数年前になると思いますが、「銀座の蜜蜂」と言う本がベストセラ-になりました。本の帯には、銀座の天空に世界最先端の「里山」が出現、と記されていました。私は、子どもの頃から多くの昆虫に囲まれて育ちました。カブトムシ、カマキリ、なかでも蜜蜂は、友達の家にもあり、身近な昆虫でした。蜜蜂の巣箱から、生の蜜をすすったり、巣殻をロ-ソクの原料にしたりしたことを覚えています。カブト虫ならオス・メスの区別は見た目で判断できますが、蜜蜂は見ただけでは分かりません。私達が目にして、花の蜜を集めている蜜蜂は全てメスです。そして、針を持ち刺すのもメスで、オスは短時間以外、巣箱から出てきません。多くの時間を巣箱の中で「ゴロゴロ」していて働きません。オス・メスは、女王蜂によって生み分けられます。

 蜜蜂の一生について書きますと、女王蜂は孵化して1週間ほどで成虫になり、巣箱から大空に飛び出します。オスバチは巣箱でごろごろしていますが、午後2時~4時頃は外に出て、女王蜂が飛び出すのを毎日待っています。女王蜂が飛び出すと同時に、オスの大群が、女王蜂との交尾のために、女王蜂の後ろを追いかけます。その光景は、まるで大空へ向かう1本の竜巻のようです。大群の中で弱いオスは振り落とされます。女王蜂は、オスの数が15匹~20匹位になるまで大空を飛び続け、追い着いたオスの全てと交尾して、精子嚢一杯に精子を貯め込みます。オスには人を刺す針はありませんが、お腹に交尾器があります。交尾を終えたオスはその場で「即死」です。役目が終了次第、一生を終えます。交尾をした女王蜂は巣に戻り産卵を開始します。卵は2種類に分かれます。貯精嚢の弁を開いて受精卵を産めばメスの働きバチになり、弁を閉じて無精卵を産めばオスになり、オスは全体の約1割です。オス・メスの割合は蜜蜂にとって死活問題です。オスを多く産めば蜜を集めるメスが少なく、メスが多いと、強いオスが現れず、次世代に子孫を残せません。オス・メスの配分を女王蜂がどのように決めているかは不明です。女王蜂は一生の間に約8万個の卵を産み、オスには、極少量のローヤルゼリーを与え、メスにはそれよりも多くのローヤルゼリーが配られます。ローヤルゼリーは、働きバチが花粉と蜂蜜を食べて体内で分解及び合成して胸腺から出す乳白色のクリ-ム状の物質です。メスの卵で、丈夫そうな幼虫には、ローヤルゼリーを多量に与えます。多量に与えられたメス蜜蜂は女王蜂の候補になります。ここでも競争があります。卵の中から数個の女王蜂の候補が生まれ、その中で最初に孵化し、成長した女王蜂の候補のみが競争を勝ち抜いて新しい女王蜂になり、他の候補は殺されてしまいます。巣箱には2匹の女王蜂は要らないのです。成虫になった女王蜂は巣立ちをします。その時1部のオス・メスが新女王蜂と行動を共にして新しい巣を作ります。巣が完成したら、女王蜂が大空に向かい交尾に至ります。オスにとっては一生に1度の交尾の飛行となるのです。女王蜂は2~3年の寿命ですが、働きバチは、夏季は1ヶ月、冬季は4~5ヶ月です。オスは、メスから蜜を貰い生きていますが、体が弱ったり、交尾に敗れたり、メス蜂から不要と思われれば、蜜も与えられずに一生を終えます。新しい女王蜂を巣立ちさせた女王蜂は、再度女王蜂の候補を産みます。女王蜂の寿命が近づいた時には、新しい女王蜂に巣全体を譲ります。世代交代により蜜蜂の巣は10年近く続きます。

 蜜蜂には天敵も多く、最大の天敵はスズメバチです。スズメバチは巣箱に入り、働きバチを捕らえて自分達の幼虫の餌にします。スズメバチは蜜蜂の後をつけて、道順にフェロモンを付けて仲間を集めます。蜜蜂も負けてはいません。スズメバチより2度体温の高い蜜蜂は、侵入したスズメバチを大勢で囲み団子状になり、羽を震わせ摩擦で体温を上げてスズメバチを熱死させます。日本には日本蜜蜂、西洋ミツバチがいますが、西洋ミツバチには、熱死のDNAがありません。自然界で西洋ミツバチがスズメバチに襲われれば壊滅的です。

 人間の世界も、昆虫の世界も、生き残るのは熾烈です。アイデアが勝負!(典)

フォローする