アク

 私も今年の8月で古希を迎えます。創業から43年目の8月です。3回の大病を乗り越えましたが、医学の発展していない時代なら生きていなかったでしょう。余分にもらった命、付録の命、日々噛み締めて生活をしています。我々が子供の頃、70歳といえば、大ジジイでした。その年になった実感は無いのですが、他人の目からは大ジジイに見えるのでしょうか。古希はひとつの節目なのか、最近は失敗した事柄が次から次へと浮かんで来ます。頼まれたスピ-チでもう少し気の利いた事を言えば、セミナ-でもう少し説明をしておけば良かった。注意不足による交通違反。無知が原因で恥をかいた事。知っていたのに告げないで人に迷惑をかけた事。大小の失敗が頭を駆け巡ります。何故か成功した事は思い出せないのです。失敗以上に成功事例もあるはずなのに!失敗の原因は、早飲み込みのせっかち、労少なくして収穫を多く望む心の怠け者、という性格もあると思います。

 以前トウモロコシの栽培で大失敗しました。スイートコーンには3種類あります。其々甘味に違いがあるので、3種類の種を買い、3種類を互い違いにまきました。有機栽培は甘くておいしい野菜が出来ます。成長した雌穂(ヒゲ)が出て、雄穂(ヒゲの上の花)が咲き受粉もしました。ヒゲの数も多く(トウモロコシはヒゲの数と実の数は同じ)ヒゲの先端が茶色になり、収穫時期を迎えました。トウモロコシは収穫時期が難しく2~3日が勝負です。また収穫して食するまでは時間の勝負です。もぎたては生でも美味しいのに1日過ぎれば甘さも半減します。もぎたてを素早く茹でました。見た目は粒が揃い美味しそうですが、何か甘味がない。スイートコーンの甘味の遺伝子は劣性で、他の種類と混ざると甘味は殆ど消えてしまうそうです。優性遺伝のアク(苦味)が出てしまいます。どの栽培本にも書いてありませんが、昨年「美味しい野菜の作り方検定」を受験した時、参考教本に掲載されていて、初めて知りました。トウモロコシは1種類を植え、2種類を植えるなら開花の時期をずらすか、100mは離さないと甘い物が出来ないとのこと。無知による失敗でした。キャニア現象と言うらしい。

 Dr・Coxに教わった話ですが「アビリ-ンの逆説」という話があります。「ある8月の暑い日、アメリカのテキサス州のある町で1家4人が団欒中に、お父さんが53マイル(約85Km)離れた隣のアビリ-ンに旅行に行く提案をしました。お母さんは、それは良い考えだと言い、長男も長女も賛成して4人は出かけました。道中は暑く、埃っぽく、とても快適とは言えませんでした。家に戻り、お母さんが本当は行きたくなかったけれど、お父さんが言うから行ったのだと告白すると、長男も長女も同様の事を言いました。お父さんも皆が行きたそうだったから行ったけれど、本当は家に居たかったと。提案者も含めて誰もアビリ-ンに行きたくなかったということを知ったのは、旅行が終わった後でした。」この現象は集団思考のひとつの形で、人はしばしば集団から外れることを嫌うために起こります。ここで考えなければならないのは「不和」を恐れ「同意」に走り、後で全員が後悔することです。ひょんな拍子にその場の空気に引きずられ、誰も好まない決定をしてしまうということは、サークルなどで起こる現象です。会社経営でも起こります。ワンマン経営は批判されますが、集団経営ではこの現象が少なからず起こります。会社経営陣でも、部活でも、サ-クルでも、最高責任者がいます。責任者は会議に臨む前に1つの結論を持って出席するものです。トウモロコシでもアク(苦味)が優性遺伝です。アクを跳ね飛ばすだけのパワ-を持ち、不和を嫌うあまり、心にもない同意はしない事です。しかし場を読まないと喧嘩になる恐れがあります。

 根切り虫は、農家にとって嫌われものです。茎を切るからその植物は駄目になります。根切り虫は茎を食べません。茎を切られた植物は倒れ、しなしなになった葉っぱにはアクがありません。根切り虫はこれを食べます。小さな虫でもアクは毒と知っています。結論の出ない会議、決断のできない会議はアクです。アクは毒です。(典)

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